目次
事業承継とは
事業承継とは簡単にいうと、「経営権と財産権の承継」のことです。
実際には、中小企業では自社株の所有権を先代経営者から後継者へと移し、経営権の承継をすることです。
そして、今まで経営者がやってきた仕事、会社の資源や人、取引先との関係やノウハウ・技術・理念などを後継者に引き継ぐことです。
事業承継の類型
事業承継は大きく以下のように分類することができます。
- 親族内承継
- 従業員承継
- M&A
事業承継は誰を後継者にするかによって以上のような分類ができますが、その中でも親族内承継が一番多い形態です。他にも、従業員承継やM&Aといった方法がありますが、それぞれの形態により事業承継の方法は異なるものとなります。
親族内承継のメリット・デメリット
親族内承継は古くから、一番多くされてきた事業承継の形態です。
親族内承継といっても、親から子供への承継の他に、甥・姪・いとこのような遠縁や、娘婿といった義理の息子、そして、現経営者の兄弟や妻といった同世代への承継があります。
それでは、その親族内承継のメリット・デメリットはどのようなものなのでしょうか?
メリット1:血縁に継がすことができる
メリット2:自社株の引継ぎが容易である
メリット3:社内外の関係者から、後継者としての理解を得やすい
従業員承継のメリット・デメリット
従業員承継は親族内承継に続いて多い事業承継の形態になります。
それでは、従業員に承継する場合のメリット・デメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか?
メリット1:会社の事業内容について十分把握している
メリット2:役員・従業員・取引先から理解を得やすい
メリット3:親族に適任者がいない場合でも、従業員・役員の中から資質のある者を選ぶことが出来るので、後継者の選択肢の幅が広がる
M&Aのメリット・デメリット
最近、よく使われ、耳にする事業承継の形態がM&Aです。昔はM&A(合併と買収)という略語から、あまり良い印象を持たない人も多かったのですが、ここ最近ではそのイメージが払拭されつつあり、M&Aをする企業も増えています。
それでは、この事業承継の形態にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
メリット1:後継者が見つからない場合でも、事業承継をすることができる
メリット2:シナジー効果が期待できる
メリット3:創業者が利益を獲得できる
廃業について
親族・従業員・社外のいずれにも承継をしないとなった場合に取る選択肢が、廃業になります。
つまり、会社の事業を辞めるということです。
廃業を選ぶ場合には、いくつかの理由が考えられます。
一番目にくるのは、業績の悪化や将来性を考えた上での廃業です。
「人」、「資産」、「知的財産」の承継とは
(1)「人」の承継
事業承継での「人」の承継とは、「経営権」の承継のことをいいます。
(2)「資産」の承継
「資産」の承継とは、事業運営に必要不可欠な資産を後継者に承継させることをいいます。
(3)「知的資産」の承継
「知的資産」の承継とは、目に見えない会社の強みを承継することをいいます。
自社株について
1 株主は、会社の実質的な所有者であり、株主の会社に対する権利の割合は持ち株数により決定されます。例えば、取締役の選任、解任等の会社の重要事項の決定は株主総会により行われますが、株主総会の決議は株式数に応じた議決権に基づき議決権の過半数により決せられます。そこで、事業承継を成功させるためには、後継者の意向どおりの株主総会の決議ができるだけの自社株を事業承継に伴って後継者が保有することが必要となります。
以上のことから、自社株の現経営者から後継者への承継が必要となってきますが、自社株の代表的な承継方法としては以下の3つがあります。
①贈与
②売買
③遺言による相続
①贈与
現経営者が、自社株を後継者に生前贈与する形で引継ぐ方法で、事業承継にはよく使われる手法です。贈与税が発生しますが110万円までの基礎控除を活用することもできるため、現経営者が亡くなった際の相続税の節税対策としても有効です。特別控除額が2500万円まである相続時精算課税制度を利用することも出来ます。
②売買
後継者が自己資金を用いて現経営者との間で売買により株式を取得することにより、自社株の承継を行う方法です。ただ株式の取得価額は一般的に高額であり、後継者に資金力がないと行うことができません。この点は売買による株式承継のデメリットともいえますが、後継者が株式を買取るだけの資金調達ができれば、株式の分散を防ぐことができるのが売買による株式承継のメリットともいえます。
③遺言による相続
遺言によって株式を承継させる方法です。株式の承継が現経営者の亡くなった後のことになるため、相続により確実に後継者が株式を取得できるよう、入念に遺言の作成等の準備をする必要があります。
この他、家族信託を利用し自社株を信託財産として後継者に信託することで、株式の承継を行う方法も考えられます。家族信託を利用すると、受託者となる後継者が株式の管理者として自社株の議決権を行使し、配当等の株式から得られる利益は受益者である現経営者が受け取ることになります。家族信託は事業承継税制の適用を受けることができず、現経営者が亡くなった際には相続税が発生します。しかし、一方で3代目以降の後継者も指名できるなど他の方法にはないメリットもあります。
2 前述のように、自社株を後継者に引継ぐことによって、経営権の承継が実行されます。そこで重要なのは、自社株の所有権を確実に後継者へと移転・集約させ、後継者の経営権を確立させることです。
株式会社の意思決定機関は株主総会ですから、後継者が経営支配権を獲得し安定的に会社経営を行うためには、最低でも自社株の50%以上、できれば特別決議を単独で可決できる3分の2以上を取得する必要があります。
そこで、現経営者が100%の株式を所有しておらず、親族や役員なども株式を持っているようなケースでは、後継者が会社経営を安定的にコントロールできるよう、現経営者が他の株主より株式を買い取る、あるいは当該株式を無議決権株式に転換しておく等、事業承継を実行する前の事前準備が必要となってくる場合もあります。
3 中小企業では現経営者が100%の株式を持っていることが多いですが、親族である後継者が相続によって株式を引継ごうとする場合などに法定相続人が複数いると遺産分割によって株式が分散してしまうリスクがあります。
また、現経営者の財産のほとんどが株式で占められている等の場合には、後継者への自社株の引継ぎが相続トラブルにつながってしまうこともあります。特に親族内承継を行う場合は、後継者に後々金銭面での負担がかからないよう、自社株だけではなく他の事業用資産も含め、遺留分への配慮が必要です。
遺留分の請求によって株式が分散すると、その後の事業運営が困難となってしまう可能性もあります。そこで、現経営者の推定相続人や、後継者以外の親族に、事業承継における自社株の引継ぎの重要性について事前に説明を尽くし理解を得ることで、将来的なトラブルを回避することは事業承継の成功に不可欠です。また、民法の遺留分に関する規定の特例を定めた経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)を活用することで、事業承継で引継ぐ自社株を遺留分から除いたり、遺留分に含める自社株の価額を合意時点の価額に固定したりすることも対策として有効です。
4 さらに、自社株を後継者に引継ぐ際には、後継者にかかる贈与税や相続税、また現経営者にかかる所得税など、税金の対策も必要です。
株式評価額は比較的高額になることが多く税金も高額になる場合が多いため、株式評価額を引き下げることで税金を安く抑えられるようにする対策も考えられます。
また、非上場株式の後継者については、事業承継税制を活用することで、贈与税・相続税の支払いが猶予され、また、一定の要件を満たした場合には猶予された税額を免除してもらうこともできます。
その他、相続時精算課税制度を利用することで、贈与税の税負担を低く抑えられる場合もあります。
このように、自社株の承継に伴う税金対策は、多様であり複雑なものとなります。
5 自社株の承継は、会社の経営権の承継そのものを意味していますので、事業承継の成功にとっては、自社株の承継の成功が不可欠なものとなりますが、自社株の承継を成功させるためには、法律上、税制上の多岐にわたる複雑な検討が必要となります。
設立時に名前を貸しただけの株主の問題点
1 平成2年以前の商法では、株式会社を設立する際に最低7人の発起人を集めることが必要とされていたため、以前は、会社設立時に創業者が100%出資しているものの、親戚や知人、従業員などの名前を借りて会社を設立するということが比較的多くありました。その結果、実際には出資していない人物の名前が株主名簿に記載されていることがあります。
このように会社に実際に資金を払い込んだ出資者(=実質株主)と株主名簿に記載されている株主(=名義株主)が異なる株式のことを「名義株」といいます。
名義株の真実の株主は、実質株主ですが、名義株が存在する場合には、真実の株主と株主名簿に記載されている名義上の株主が異なることから、会社の事業承継にあたって以下のような問題が発生する可能性があります。
① 名義株を後継者に引継ぐことができない
名義株は、実質株主である現経営者本人の名義ではないため、名義株を現経営者から後継者に贈与又は売買することができないことから、後継者に株式を集約させることができないため、後継者は経営支配権が確立できず、安定的な経営が行えなくなってしまいます。
② M&Aのスキームを用いて事業承継を行おうとする場合に名義株の存在によって買い手がつかない恐れがある
名義株が誰の株式なのか不明確である場合、トラブルのもとになったり議決権が足りなくなったりする恐れがあり、このことは買い手にとってリスクであることから、買い手が現れず、M&Aが成立しない要因となります。
③ 名義株主や実質株主が死亡した場合に名義株を後継者に承継できない
後継者への株式の承継を実質株主の相続時に行うことを予定している事業承継の場合、名義株主と実質株主の一方あるいは双方に相続が発生すると、相続人には名義株となっている事情が不明であったり、また相続人の誤解や相続人間に意見の不一致が生じて、名義株の真実の株主が誰なのかについての問題が起こり、後継者への株式の承継をスムーズに進められなくなる可能性があります。
2 このような問題が生じるのを避けるため、会社の株主名簿の記載や実質株主の話などから、会社設立時に名前を借りた名義株が存在する、またはその存在が疑われる場合は、その状態を整理、解消して、株式の名義を真実の株主である実質株主に戻しておくべきでしょう。株式の名義を実質株主に戻す方法としては状況に応じて以下のような方法が考えられます。
【パターン①】株主名簿の書換え
名義株主と連絡が取れ、名義株主に自身が株主ではないことの認識がある場合、または、名義株主に名義株であることの説明をし、かつ名義を実質株主に変更することに名義株主が承諾してくれる場合は株主名簿の書換手続を行うことによりスムーズに株式の名義を実質株主に戻すことができます。
株主名簿の書換手続は、名義株主と実質株主が共同して、会社に対して株主名簿の書換請求を行うことになります。その際、後々税務署から、名義株主から実質株主に株式を無償で贈与したとして贈与税が課されてしまうリスクを避けるために、株式はもともと実質株主の財産であり、今回名義書換をしただけであるということを「確認書」として作成しておくのがよいでしょう。
【パターン②】名義株主の意思に関係なく名義株の解消を行う方法
名義株主と連絡が取れない場合、または名義株主に連絡が取れても、名義書換について協力が得られない場合には、まず、訴訟を提起して自身が実質株主であることを明らかにして、書換を命じる判決を得る方法が考えられます。
また、株式併合や全部取得条項付種類株式の活用、特別支配株主の株式等売渡請求制度により、名義株を強制的に買取り少数株主の排除を行う方法も考えられます。
さらに名義株主と連絡がつかない場合については、前述の方法に加えて、会社法で定められている所在不明株主の株式売却制度を利用して、5年以上の間、株主総会の招集通知が届かない等の要件を満たす株主の株式を強制的に買い取るという方法も選択肢として考えられます。
黄金株(拒否権付株式)について
拒否権付株式(黄金株)とは、株主総会又は取締役会の決議事項について拒否権を持つ株式のことです。
事業承継の場面では、後継者への株式の承継により早期に事業承継を実行したいが、後継者の経験不足などによる経営上の不安がある場合に、現経営者に黄金株を付与した上で、事業承継を実行し、事業承継実行後においても取締役の選任、解任や事業譲渡、合併など会社の重要事項については、黄金株を通じて現経営者が会社経営をコントロールするというような活用方法をすることにより、事業承継を円滑に進めることができます。また、現経営者にとっても事業承継により会社経営から一切手を引いてしまうことになるのは心理的な抵抗となり事業承継への着手を躊躇させる要因になることが考えられますが、現経営者による黄金株の保有はこのような現経営者の心理的な抵抗を払拭し早期の事業承継への着手を実現する手助けになるといえます。
一方で、黄金株を発行した場合には、経営承継円滑化法の適用が受けられず、事業承継税制や株式に関する民法の遺留分の特例が受けられない等のデメリットもあります。
そこで、上記のようなデメリットも踏まえて、事業承継において黄金株を活用するべきかを検討することになります。
事業承継は会社が継続していく上では、必ずしなければならないことです。
早めにしっかりと計画を立てて進めていけるかどうかで明暗が分かれます。
もし、どのように事業承継を進めていけばよいのかという悩みがある場合は、「事業承継の計画書」の作成・提案を事業承継の専門家に早期に依頼するのがよいでしょう。
そうすることで、事業承継の専門家が間に入って、事業承継を計画的に進めていく事ができるでしょう。