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兄弟間の相続は揉めがち…?
被相続人の子が相続人となることは典型的な相続の形です。ただ、その場合、子が複数人いたり、子の中にすでに亡くなっている方がいてその代襲相続人となる孫が複数人いたりと、相続人が多数になることがあります。
また成人している子であれば、たとえ血を分けた兄弟であっても、既にそれぞれ異なる環境で生活を営んでおり、親子などの直系の親族ほど親密な関係にないことも多いのではないでしょうか。
そのため兄弟間の遺産分割では、人間関係の希薄さゆえに各人が自分の利益を優先したり、また、昔からの確執や感情的な対立が先行したりすることにより、揉め事が起こってしまうことがあります。
その結果、相続をきっかけに兄弟関係に亀裂が入ってしまうことも残念ながら少なくありません。
ここでは、被相続人の子が複数人いる場合、つまり兄弟姉妹間での相続の基本と、トラブルに発展しやすい例、それを防ぐためにはどのような対策や準備ができるのか、具体的な遺産分割の流れなどをご説明いたします。
兄弟での遺産分けの基本
相続が発生した際、故人が遺言を遺していれば、原則として遺言に従って相続を行います。
一方、遺言がなかった場合には、法律によって定められた相続人(法定相続人)全員で遺産分割を行うことになります。
法定相続人には、それぞれが遺産に対して相続する権利を持つ割合(法定相続分)が定められており、被相続人の子が複数人いる場合には、子の間では、遺産は均等に分けると決められています。
例えば、被相続人の配偶者が存命の場合、配偶者が1/2、その残りを子である兄弟姉妹間で等分(兄弟が2人であれば兄が1/4、弟が1/4)に遺産を分けることになります。
このように、兄弟姉妹の法定相続分は原則として平等です。兄弟間で遺産分割を行う際は、等分が基本であり、長男かどうかなどは関係ありません。
また実子に限らず、養子や、異父・異母兄弟(前/後の配偶者との子など)、認知された非嫡出子(婚姻関係にない男女の間の子)も、同じように等しく相続の権利を持ちます。
このような異父・異母兄弟やいわゆる隠し子などの存在が相続が起こって初めて明らかになった、または疎遠であった兄弟が戸籍を取寄せたところ実は既に死亡していたということも考えられます。
遺産分割は法定相続人全員で行わなければ、無効となりますので、判明している相続人のみで安易に手続を進めるのではなく、まず相続人調査をしっかりと行いましょう。
兄弟間で遺産分割トラブルに発展しやすい例
兄弟間での相続トラブルはどのような場合に起こりやすいのでしょうか。
その例をいくつかご紹介します。
ケース1:兄弟の一人が実家に住んでいる
兄弟のうち一部の方が親の所有していた実家で一緒に暮らしていて、同居する親が亡くなったという場合です。
遺産がほぼその実家不動産のみという場合は、不動産の分け方をめぐって兄弟間で揉める可能性があります。
特に相続人が実家に住み続ける場合については現実的にとることのできる分割方法が限られてしまいますから、より意見の対立が生じやすいでしょう。
また分割方法の合意はできても、代償分割を行う場合は不動産の評価額が、換価分割を行う場合は売却額がそれぞれ争点となってしまう可能性も考えられます。
ケース2:親の財産を管理していた兄弟がいる
兄弟のうちのどなたかが、親の晩年その財産を管理していたということもあるでしょう。
その場合、親の死後、他の相続人から財産の隠蔽や使い込みを疑われてしまうことがあります。
親の財産を不正に流用したとして、その分の返還を求める裁判に発展してしまう可能性もあります。
このようなトラブルを防ぐために、財産の使途に関する帳簿や明細など記録を残しておき、適正な支出であったことを説明できるようにしておくとよいでしょう。
ケース3:親の介護をしていた兄弟がいる
親の生前、介護や看護を行っていた兄弟がいた場合に、その兄弟が寄与分の主張をすることがあります。
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献したとして、法定相続分を超える財産の相続を認める制度のことです。
寄与分が認められるためには、「特別の寄与」によって「財産の維持または増加」したという因果関係がなければならず、親の介護等を行っていたからといって必ずしも寄与分が認められるわけではありません。
しかし、親の介護等を行っていた兄弟より寄与分の主張が行われた場合、感情的な対立も含めて兄弟間で揉める原因になってしまいます。
ケース4: 兄弟の一部が生前に多額の財産をもらっていた
親が生前、子のうちの一部だけに生前贈与をしていたり、自宅マンションを買ってあげるなど多額の支援をしていたりした場合、それが特別受益(相続財産の前渡し)とみなされることがあります。
特別受益にあたると認められると、その金額を相続開始時の遺産に加算する「特別受益の持戻し」がされ、他の相続人の取得分を相対的に増やすことで相続人間の公平が図られます。
もっとも、特別受益の持戻しは被相続人の意思にそぐわないと考えられる場合もあります。そこで、贈与契約や遺贈を行う際に、被相続人である親が持戻しを免除する旨の意思表示をしておくと、持戻しを行わなくてよいことになります。
以上のように、親が生前に子に対して財産の贈与をしていた場合には、特別受益の有無や持戻し免除の意思表示の有無をめぐり、兄弟間の感情的対立も含めてトラブルとなりやすいといえます。
ケース5:遺言書の内容が偏っている
親が子である兄弟たちに遺言書を遺していても、その内容が一部の子に極端に有利なものであった場合、他の兄弟から遺留分侵害額の請求を受けることがあります。
遺留分とは、民法で配偶者や子などに認められた、遺産について最低限取得する権利のある取り分のことです(親の兄弟姉妹(第3順位)には遺留分はありません)。
いくら遺言で財産の分け方が指定されていても、遺留分は一定の相続人に対し法律で保障された権利ですので、遺言が遺留分を侵害する内容である場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をできることになります。
遺言を作成されるときには、各相続人の遺留分割合を確認し、それを侵害する内容となっていないか配慮する必要があるといえるでしょう。
ケース6:実際の遺産内容が想定と異なる
兄弟間で把握していた親の財産の内容や遺言に書かれていた遺産内容と、相続発生後に調査し明らかになった実際の遺産の内容が大きく異なる場合です。
例えば、親の財産として不動産と現金があり、親の生前の話し合いでは、兄弟のうち一人が不動産、一人が現金を取得することになっていた場合に、不動産の時価が想定より高かった、もしくは現金が想定より少なかったなどの事態が起こると、兄弟間に不公平感が生じ、揉めてしまう可能性があります。
ケース7:兄弟姉妹の配偶者が関与してくる
相続人ではないにもかかわらず、金銭が関係する問題であるために、相続人である子の配偶者が遺産分割の話し合いに同席することもしばしば見られる例です。
細かな事情を知らない者が、金銭面での取り分を多くすることだけを目的に介入しようとするため、話がこじれて無用なトラブルに発展してしまう恐れがあります。
「話し合いに参加するのは相続人本人だけ」というように、先にルールを決めておくとよいでしょう。
兄弟間での遺産分割トラブルを防ぐためのポイント
相続をきっかけにそれまでの兄弟関係が壊れてしまうのは残念なことです。
ご紹介したようなトラブルを防ぐために、相続発生前や発生後に留意しておくことのできるポイントをご説明します。
相手の状況・意見に配慮する
兄弟姉妹間では、相手の状況や心情に配慮せずストレートに自分の意見や要求をぶつけてしまいがちです。
疎遠な兄弟の場合はお互いの生活状況が分からず、プライドや思い込みが先行してしまうこともあるでしょう。
相手に配慮する、そんなこと、と思われるかもしれませんが、伝え方や思い込みひとつで感情的対立が生まれ、争いに繋がってしまうこともあると考えられます。
まずは相手の状況や意見を聞いてみる、自分の状況や意見も伝えてみるなど、お互いの状況や考えの共有から始めてはいかがでしょうか。
その上で相手の立場や考えに配慮しながら遺産分割に臨まれることで、無用な争いを招かないことができるかもしれません。
遺言書を作成しておく
生前対策にはなりますが、やはり親御さんには遺言を作成してもらい、遺産の分け方について意思を遺しておいてもらうのが最も有効でしょう。
法的に有効な遺言書があれば、原則として遺言書の内容どおりに相続が行われることになりますので、相続手続もスムーズに進められ、相続争いを回避しやすくなります。
せっかくトラブル回避のための遺言書を作成されるのであれば、先にご説明したとおり、各相続人の遺留分に配慮し、不公平な内容にならないようにすることが重要です。
公平に分けることができない場合は、遺言書の付言事項に、なぜそのような内容にしたのか、理由や思いを記すことで相続人の方の感情を和らげることができるでしょう。
遺言書の作成が難しい場合でも、遺産の用途に関する希望(揉めるくらいならば自宅は売却してほしい等)や、個別の相続人との財産のやり取りの真意(どうして/どのくらい生前贈与したのか等)など、何らかの意思を親御さんがエンディングノートに書き記しておくだけでも、遺産分割協議の場で相続人間に一定の心理的な効力を発揮することができるでしょう。
生命保険を活用する
こちらも生前対策です。
生命保険の保険金受取人に、財産を遺したい方を指定しましょう。
生命保険金は相続の対象となる財産には含まれませんので、遺産分割の話し合いを経ずに確実に受取人に現金を引継ぐことができます。
不動産などを代償分割する場合の代償金の支払資金として活用することもできます。
相続発生前に財産を現金化しておく
現金は明確に、公平に分けることが可能な財産です。
相続において特にトラブルのもとになりやすい不動産は、売却し現金化しておくことで遺産分割しやすくなるため、兄弟間のトラブル防止になるといえます。
ただし、不動産を売却すると相続税の節税効果は見込めなくなってしまいますので、相続税のシミュレーションをするなどして慎重に判断する必要があるでしょう。
弁護士に相談する
兄弟間での相続トラブルの深刻化を避け、スムーズに相続手続を進めたいのであれば、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。
遺産分割は、相続に関して必ずしも十分な知識があるとは限らない当事者同士の話し合いであるからこそ、まとまりにくいという面もあります。
第三者である弁護士を通して交渉したら、意外にもスムーズに合意に至ったというケースもあります。
また兄弟間で揉めてしまう前にも、弁護士に相談することで、遺産分割の方針や手続の方法について法的知見に基づいたアドバイスをしてもらうことができます。
兄弟間での遺産分割の流れ
親が遺言を遺しておらず、相続人間で遺産分割を行う際、特に子が複数人いて兄弟姉妹が相続人となっている場合の流れについてご説明いたします。
相続人調査
遺産分割は法定相続人全員で行う必要があります。
そのためにまず、相続人の範囲を確定させなければなりません。
相続人調査を実施しないまま遺産分割を行ってしまい、後日他に相続人がいることが判明した場合には、その遺産分割は無効となり、遺産分割のやり直しをしなければならなくなります。
ページの初め「兄弟での遺産分けの基本」でご説明しましたとおり、思いがけない相続人が存在することも考えられますので、分かりきっているからと省くことなく、必ず行いましょう。
まず、親(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、原戸籍謄本)を揃え、被相続人の婚姻・親子関係を明らかにします。
被相続人に離婚・再婚歴があったり、養子縁組をしていたりする場合や、代襲相続が発生している場合なども、順を追って戸籍を取得し確認します。
家系図(相続関係図)を作成するとわかりやすいでしょう。
法定相続人が確定出来たら、実際の相続手続の際に必要となりますので、相続人全員の現在の戸籍謄本も取得しておきましょう。
各相続人の住所地を確認したい場合は戸籍の附票も一緒に請求します。
相続財産調査
次に、遺産分割の対象となる相続財産を確定させます。
被相続人が遺した不動産や預貯金などのプラスの財産と、借金やローンなどのマイナスの財産の両方について、どのようなものが、どれだけあるのか確認を行います。
まず、被相続人の遺品の中から、手掛かりとなる権利書(登記識別情報通知や登記済証)や通帳、証書、郵便物などを探し出します。
それをもとに、市区町村役場や金融機関等に必要に応じて照会、証明書類の請求をします。
例えば、不動産については、毎年役所より送られてくる固定資産税の課税明細書などを確認し、法務局で不動産登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば、所有者や抵当権の設定の有無などが確認できます。
預貯金や、保険、株式、投資信託などの金融資産については、それぞれの銀行や証券会社などに、残高証明書や取引明細書など相続財産の具体的内容が分かる書類の発行を依頼します。
遺産分割協議
法定相続人と相続財産を確定させたら、相続人全員で遺産分割の話し合いを行います。
協議では、誰がどの遺産をどれだけ取得するのかを決定します。
遺産の分け方には、複数の遺産があれば遺産ごとに承継者を決める方法(現物分割)や、特定の相続人が遺産を取得する代わりに他の相続人に代償金を支払う方法(代償分割)など複数の方法があり、遺産ごとに異なる方法を取ることもできます。
遺産分割についての話し合いがまとまり、相続人全員による合意に至れば、遺産分割協議書を作成して合意の内容を書面に残します。
遺産分割協議書は、不動産や預貯金等の相続手続の際の必要書類となります。
また遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印での捺印が必要となることから、後日の相続人間の争いを防ぐこともできます。
一方で、もし、相続人間での話し合いがまとまらなかったり、話し合いが難航したりする場合は、遺産分割調停の申立てを検討することになります。
相続手続
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書に基づいて、預貯金や金融資産などについて銀行、証券会社等で所定の相続手続を行うことになります。
また、不動産については、不動産の所在地を管轄する法務局へ所有権移転登記の申請(相続登記)を行うことになります。
相続税の申告・納付
相続で財産を取得した各相続人は、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+(600万円×法定相続人の数))を超えている場合、相続税を支払わなければなりません。
相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、税務署に相続税の申告と納付を行います。
申告期限を過ぎると、延滞税や加算税を課せられてしまいます。
遺産分割に関して弁護士に相談すべき理由
遺産分割の基本となるのは、相続人間の話し合いです。
一方で、相続の当事者同士で円満に話し合いができ、合意ができれば一番良いのですが、いざ蓋を開けてみるとなかなかそう単純にはいかないのが相続でもあります。当事者同士の話し合いであるからこそ、スムーズにいかない面もあるでしょう。
そこで、遺産分割についてお悩みの際は、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。弁護士へのご相談をお勧めするのには、以下のような実はとても重要な理由があります。
理由1:代理人として協議から裁判手続まですべて行うことができる
遺産分割のご相談は、司法書士や税理士など他の士業の先生も取り扱っていますが、あなたの代理人となって遺産分割協議の場で交渉を行い、さらに遺産分割調停・審判の場においても代理人として活動することができるのは、弁護士だけです。
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理由2:相続調査を正確に行うことができる
遺産分割を行う際は、まず相続人と相続財産を確定させる必要がありますが、故人を亡くされたお悲しみ、精神的疲労の中、相続人や相続財産の調査を行うのは、かなり負担の大きい作業です。
しかし遺産分割にあたり大前提となる相続人や相続財産の内容を正確なものにしておかないと、後になって遺産分割のやり直しをしなければならなくなる可能性があります。
また、相続財産の調査の結果によっては、相続放棄(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に申述する必要があります。)を検討した方がよい場合もあります。
このように、遺産分割において相続人や相続財産の調査は極めて重要なものですが、弁護士は相続人・相続財産調査に精通していますから、この調査作業を正確に行うことができます。
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理由3:解決までの見通しを立てることができる
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